2016.08.02

臼田あさ美写真集『みつあみ』特別企画連続チェキインタビュー第3回：奥山由之

「人間の不確かさ」と向き合うこと

――対象との向き合い方にこそ、オリジナリティが現れるというわけですか。

写真における“オリジナリティ”という議論は、やはり質感や色合いに集中しがちですが、それよりも、人をどの角度で見ていて、どういう瞬間にどういったバランスで捉えているのか……ということを考え続けることのほうが大事だと思っています。誰しにも「この人と一緒にいると楽だな」とか「初めて会った気がしないな」という人がいると思いますが、それは、自分とその人の人間としての「波」が合っているからで、例えばそういう人と写真を撮り合ったら、どちらもいい写真が撮れると思う。そして、その「波」が必ずしも最初から合っていない人であっても、自分の波を寄り添わせていける、チューニングできるのがプロの写真家なんじゃないかなと。勿論、人だけではなく、街や自然に対しても。でも、そういうことって、写真を巡る最近の話の中では、あまり語られないですよね。フィルムかデジタルかといったツール、ひいては質感の話や、手法の話が先行してしまう。ただ僕にとってそれは二の次というか、まずは被写体となる人や物、風景とどう向き合うのかという事が最初です。

――技術的にはもうなんとでもなる時代だからこそ、その根本のところを意識するべきということでもありますね。

そうですね。そういう根源にこそ、革命的な表現を生み出すヒントがあると思うんです。チェキも、さっき言ったように「あ、これはチェキだ」とひと目でわかるような強い個性を持ったものなので、ある種のアイコンとしての要素があります。それは同時に、固定概念を持たれているということでもあって、その概念の根っこを見てみると、意外な撮り方、使い方があるのかもしれません。ぱっと見ただけで「あぁ、これはこういうジャンルのもの」と判断する癖が現代人にはあると思います。表面上を見て、短時間で判断してしまう。ましてや時代が進めば進むほどに、表面上の質感の種類は豊富になっていきますよね。すると質感によるジャンル分けみたいなものが生まれる。その癖を逆手にとった新しい発見がないかな……と思っています。

――そういう意味では、ある部分でフィルムカメラであり、一方ではデジタルやiPhoneの写真のようでもあるチェキは、面白い立ち位置ですよね。

そうですね。もともとカメラとしてのスペックの高さを求められていなくて「本気でハイクオリティなものを撮るためのものだよ」という顔をしていないからこそ、向けられたほうの心持ちがきっと違うんですよね。だからこそ、「写されるための顔」の奥にあるその人の隠れた表情が出てくるというのは興味深いです。それと「写ルンです」にせよチェキにせよ、発売当初は主に「簡単に撮れる」「すぐ友達にあげられる」みたいな利便性が売りで誰も質感の話なんてしていなかったはずなのに、いつしか時代ととも質感が一つの特徴になっている。さらには、その質感があるだけで、見るほうが勝手にストーリーや文脈を設定したり、読み取ったりして。「人間の感受性って不確かで柔軟なものだな」と思いつつ、そこと向き合うことに写真のおもしろさがあるのも確かで。

――そのゆらぎや不確かさこそ、人間のおもしろさですもんね。「撮る」という行為は、それを探ることなんでしょうか？

たぶん、誰に見せる気もなく撮られた写真が一番強かったりするんですよね。『みつあみ』に入っている僕の写真だけの話でいうと、「これを誰か見る」と思って撮っていなくて、お互いの関係性だけがシンプルにそこにある。だからこそ「今まで自分が撮ってきた写真はこんなに弱かったんだ」と痛感しました。言い方を換えれば、自分の写真にとって一番大事な部分がクリアになった作品でした。勿論、常にこの撮り方が正解というわけではないのですが、例えばお仕事においては「撮る」ということを必要以上に目的化しないで、スタッフさん含め、みんながいい時間を過ごしているうちに「そういえば、今日は撮影だったね」というぐらいの空気で撮れるものが結果的に一番強いんじゃないかとは思います。……なんだかやたら精神論みたいな話ばかりになってしまいましたけど。大丈夫ですかこれ（笑）。

『みつあみ』インタビュー第1回：藤田一浩はこちら
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